それは心から楽しんでいる証拠



「近藤さん、お願いがあるんですけど、いいですか?」
「ん?どうしたんだ?俺にできることならなんでもするぞ!」
「あの、万事屋さんまでの地図を書いてほしいんですけど…」
「なんだそんなことか!ちょっと待っててな!」


次の日、有思実行ということでケーキを持って万事屋に行くことにした。一度万事屋の前に行ったことはあるものの…あれは行ったというよりも、行かされたというか、不可抗力であの場に立っていただけだ。つまり道なんて分からない(その後倒れて、沖田さんに背負われ屯所に辿りついたわけだし)。

ということで、万事屋までの地図を近藤さんに頼んだ。地図さえあれば大丈夫、一人でも行けるはず!








   

  







ー、書けたぞ!」
「ありがとうございます、近藤さん」
「万事屋に遊びに行くのはいいが、今日はなるべく早く帰ってきてくれ」
「なにかあるんですか?」
の歓迎パーティーをしようと思ってな!そういうことだから晩御飯の時間には間に合うように帰ってきてくれ、な!」
「…はい!なるべく早めに帰ってきます、それじゃ、行ってきます!」


歓迎、パーティー。その8文字が頭の中でグルグルと回っている。歓迎、してくれているんだ、見ず知らずの身元不明のあたしを。そうやって、少しずつだけれどあたしの居場所ができていくのがすごく嬉しい。この世界でもちゃんと生きていける。高ぶる感情を押し込めるように、近藤さん手書きの地図をギュッと握りこんだ。


「あ!土方さん、沖田さん、おはようございます!」
「おー、じゃないですかィ」
「今日は非番か?どこか行くのか?」
「はい、ちょっとこれからおでかけです」


屯所の門へ向かって歩いていると、前方に既に見慣れた黒髪とカフェオレ頭が見えた。どうやら2人はこれから市中見回りらしい。土方さんの前髪が少し焦げていたので聞いてみれば、ついさっきバズーカーで撃たれただとか。初めてバズーカーで撃たれたところを見たときは、本当に死んだのではないかとヒヤヒヤしたけれど、それにもすっかり慣れてしまった。土方さんはすごい生命力の持ち主だとそのとき悟った。


「せっかく俺が気持ちよく寝てたっていうのに…起こしやがって土方コノヤローまじでどうにかなりやせんか」
「どうにかなってほしいのはお前の頭の方だ!ったく、どう考えたって仕事中に寝てる方が悪いだろーが!」
「へいへいそうですねー俺が悪う御座いやしたー」
「ッてめ総悟、その言い方すげぇムカつく!今日という今日はたたっ斬る!」


土方さんが抜刀し、沖田さんに斬りかかる…って、隣にいるあたしもものすごく危ないじゃないか!2人の乱闘(…土方さんが一方的に攻めてるだけだ。沖田さんは余裕でからかい続けている。土方さん…)をするりと抜けて、あたしはかぶき町へと駆け出した。





…あぁ、屯所を出る前にしっかりと地図を確認するんだった。近藤さんから受け取った地図を頼りに歩いた結果、今あたしの目の前に見えるのは"スナックすまいる"だ。かぶき町イコール繁華街、スナックだとかキャバクラだとかホストクラブだとか、そういうお店がたくさんだろうということは承知の上。似たようなお店が多いから、あたしが道を間違えたの?ううん、そんなことはない。近藤さんの書いた地図は、すごく正確に書かれていた。………スナックすまいるまでの道のりが。

なんで屯所出る前にしっかり確認しなかったかな…。過去を悔やんでも仕方がないけれど、悔やむざるを得ない。一体ここはどこなんですか!いや、スナックすまいるの前だけど!




「それでは姉上、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとう、新ちゃん。助かったわ」
「いえ。では、僕も仕事に戻ります」
「またね、新ちゃん」


俯いて一息つき再び顔を上げた先には、つい先日出逢ったメガネくん…そう、万事屋の新八くんだ!
あれ…?新八くんが…スナックに?あたしの目測だと新八くんは16,17歳くらいなんだけど…いや、未成年がスナックに行ってはいけないだとか、あたしがそんなことを制限できるわけじゃないけれど、あの、教育上よろしいとは言い切れないわけで、えっと、あれ…うん、またねってことはまた会うということで、えぇっと…あ…うん…えっと…


「あ、さん!」
「あら?新ちゃんのお友達?」
「真選組で女中をしている方なんです。…さん?さん?」
「…ッはい!はい、はい!どうかしましたか、新八くん!こ、ここんにちは!」
「………いや、さんの方がどうかしたんですか…?」
「…あー…えっと…」


うんうん唸っていたら、あたしの存在に気づいたらしい新八くんが声をかけてきた。隣に立つキレイなお姉さんもあたしに視線を向ける。うわぁ、キレイな人だ。優しそうなふんわりしたオーラが漂っている。


さん、こちらは僕の姉上です」
「新ちゃんの姉の妙です。よろしく、ちゃん」
「え?!お姉さん?!…あ、お姉さん…そうか、お姉さん…」


なるほど!こちらの妙さんは、新八くんのお姉さんだったのか…。なんとなく安心。そこでふと我に返る。あたしは万事屋に行こうとしていて、ここに辿りついた。そしたら新八くんがいた。ということは、新八くんについて行けば万事屋まで行ける!


「ところでさん、どうしてここへ?」
「もしかしてここでバイトをしたいということなら、喜んでやってもらうわよ?」
「あ、違くて…あの、本当は万事屋さんに行こうとしてたんですけど…」


近藤局長に地図を書いてもらったらここへ辿りついた、と全文言い終わる前に、妙さんに地図を奪われすごい音を立てて引き裂かれてしまった。紙だとは思えない凄まじい音がした。ビリビリッなんて可愛いもんじゃなかった。

恐る恐る妙さんに声をかけると あのゴリラ…! と、まさに般若の顔をしている。ゴリラって、ゴリラって、もしかしてもしかしなくても近藤さんのこと?!言われてみれば確かにゴリラかもしれないけど!


さん!万事屋に行くんですよね、早く行きましょう!それじゃぁ、姉上!」
「え、え、えっと、妙さん、また!」


新八くんに手を取られて勢いよくその場から離れる。上手く回らない頭の中で分かったことといえば、妙さんと近藤さんの仲は良好ではないということと、妙さんの前で近藤さんの話は禁止だということだ。