「銀さーん、神楽ちゃーん、さんが遊びにきましたよー」 「お邪魔しまーす…」 「ーーーーー!待ってたアル!会いたかったヨ!」 小さな声で 玄関を跨ぐと、奥の方からドタバタドタと聞こえ、いきなり正面から抱きつかれてしまった。目に入る、可愛らしいお団子頭。チャイナ娘の神楽ちゃんだ。こんなにもあたしに会いたがっていてくれてたなんて嬉しすぎる。 「ちょっと、神楽ちゃん!仮にも初対面に等しいんだから!」 「何を言うネ、新八は分かってないアル!こういう積極性から友情関係は生まれるネ!」 「うん、神楽、言いたいことはなんとなく分かった。でもそろそろ離してやらねぇと死にそうだぞ」 「わ?!ごめんアル!大丈夫か?!」 「…だ、だいじょぶ、です…」 フラフラな足取りのあたしの手を神楽ちゃんが握ってくれ、家の奥へと進む。一番に視界に入ってきた"糖分"の文字を見て思い出す。そうだそうだ、ケーキ持ってきたんだった!これは一応銀髪頭の…銀時さん、だっけ。銀時さんに渡すのがいいのかな。この中では一番上みたいだし。しっかり加減では新八くんの方が上っぽいけど。 「ん?!…ケーキ?!ケーキの匂いがするぞ新八ィイイ!買ってきたのか?!金欠で糖分取れてない哀れな銀さんに糖分で救済を、か?!」 「ケーキなんて買ってきてませんよ。銀さんが金欠ならば僕だってそうですもん、お給料もらってないんですから」 「…だよなぁ。お前にそんな気ぃ回るとは思えねぇしな」 「…もう今後一切お菓子買ってきませんからね。たとえ銀さんが自分で買ってきたとしても神楽ちゃんに全部食べてもらいますからね」 「ちょ、待ってよ新八くん!冗談冗談、お前はよく気ぃ回るすごい奴だって、な?!ツッコミできるしツッコミできるしツッコミできるしメガネだし!」 「なんだそれ、褒めてるの?!それは褒めてるんですか?!」 「褒めてるよ、ものすごく褒めてるよ、今世紀最大の褒めだよ…ってそれは言い過ぎか。とりあえず褒めてるからそういうこと言わないで、お願いだよ新八くん!」 「あ、あの、あの!銀時さん!」 ケーキを差し出す前に口論が始まってしまった。なんとか間を見計らって声をかけてみるが、銀さんと新八くんの口論はどんどんヒートアップしていく。マンガやアニメでよく描かれている炎が2人の後ろに見えてきそうだ。やっぱり銀時さんは甘いものが大好きみたいだ。それなら尚更、早くケーキを渡したいんだけどなぁ。 だけど、あたしの声なんて届いちゃいないみたいだし。どうするべきか。 「、、この箱なにアルか?」 「え?あ、うん、これ、ケーキだよ」 「まじでかァアア!食べてもいいアルか?!今すぐにでも食べたいネ!すごくいい匂いするヨ!」 「…銀時さんと、新八くん、ほっといても大丈夫?」 「あんな奴らほっとくヨロシ!それに銀ちゃんにケーキ見せたら私の分が確実になくなるネ!」 そう言った神楽ちゃんはソファに座り、箱を開けた。あたしは神楽ちゃんの前に座り、箱を開け目を輝かせ、ほっぺが落ちそうなくらい喜んでくれている神楽ちゃんを見ていた。こんなに喜んでくれるならまた焼いてくるよ!今度は初めから沖田さん抜きで!(あ…なんか思い出したら土方さんが哀れに思えてきてしまった…ごめんなさい) 「ちょっと神楽ちゃん!銀さんになんとか言ってやってよ!この人仕舞には給料払わないとか言い出したんだけど!」 「新八だって経済難だからご飯の量減らすとかお菓子は買ってこないとか、これを神楽はどう思う?!ご飯の量を減らす、だってよ?!」 「………ほんなのいまふぁどうでもいいネ」 未だに口論を続けていた2人がすごい形相でこちらを向いた(般若だ。さっき見た妙さんには負けるけれど!)。そんな2人に神楽ちゃんはうっとうしそうな顔を向け、口をモゴモゴさせながら喋る。 …あー、もうケーキほとんど残ってないや。銀時さんや新八くんの分も、と思ってたんだけど、予想外に神楽ちゃんが食べたからな…いや、嬉しいんだけどね?まさかこんなに食べるとは思わなくて! 「…ん?ちょ、神楽ちゃぁーん…?その、口元についた白い生クリームみたいなやつは何か銀さんに教えてくれない…?」 「生クリーム以外の何に見えるヨ?馬鹿アルか、銀ちゃん」 「なんでお前の口元に生クリームがついてるのか、な?」 「食べたからに決まってるネ。生クリームだけ口元につける遊びなんて流行ってないヨ」 「食べた、って、どこに生クリームがあった…?」 「がケーキ持ってきたネ。!すっごく美味しかった!ごちそうさまアル!また焼いてきてヨ!」 「神楽ちゃん全部食べちゃったんだ…」 「だってすっごく美味しかったヨ!」 「ありがとう」 そこまで言ってもらえると照れる。神楽ちゃんはなんでこうもあたしが喜ぶようなことばかり言ってくれるのかな、嬉しくてたまらないんだけど! ちらりと横を見ると、さっきまで瞳孔が開きそうな勢いで新八くんと口論していた銀時さんが茫然と立ち尽くしている。その視線の先には、スポンジの屑一つ残っていない空の箱。 「………神楽ァァアアア!ちょっと、ちょ、何してくれてんの?!なんでお前一人で全部食べてるの?!銀さんの分残しておこうかな、とか、そういう優しさないわけ?!そんな子に育てた覚えないんだけどォオオ!」 「育てられた覚えもないネ。だいたい悪いのは銀ちゃんアル。新八とケンカなんてしてるから」 「…そうだよそうだよ、元はといえば新八と口論してたから…ってことで、メガネ!お前ケーキ買って来い!今すぐ買って来い!メガネ外して買って来い!」 「はぁ?!あんた言ってることめちゃくちゃだよ、なんだよメガネ外して買って来いって意味分かんないよ!僕だってケーキ食べたかったんですからね!」 「んだよ新八のくせして!だからオメェは新八なんだよ!」 「今新八のすべてを否定した?!新八全否定?!」 どうしてかまた2人の口論になってしまった。あ、あたし遊びに来たはずなのに絶対忘れられてる…!食べ物の恨みって恐ろしい、いや、ほんとに。 「銀ちゃんも新八も、もう止めるネ。困ってるヨ」 「え?!いや、あ、うん…困ったけど、っと…その…銀時さん、またケーキ作ってきますから」 「、気ぃ遣うことないヨ。銀ちゃんなんかにのケーキ食べさせるなんてケーキが可哀そうネ」 「神楽オメェは黙ってろォオオ!………で、まじでか、」 「はい、そんなに食べたいって言ってくれるならまた遊びに来る時に作ってきますよ」 「ちょ、女神が見えるよ女神がいるよ、後光が差して見える、まじで、うん」 両手を高くあげて何度も何度も よっしゃ、よっしゃ、 と喜ぶ銀時さんを見てたら思わず頬が緩んでしまった。なんだか可愛らしい。見た目はこんなに大人なのに(土方さんと同じくらいかなぁ?)、心の中は本当に少年って感じで。 そんな銀時さんを見ていたあたしの前に新八くんがお茶を置いてくれた。そのお茶をありがたくいただきながら、4人で他愛もないことを話す。この前したお仕事の話だとか、土方スペシャルの話(ちなみに銀時さんのは宇治銀時丼というらしい。恐らくこれも犬の餌なのかな…と思う)、神楽ちゃんのお父さんの話、池に住むカッパの話、隣に住むヘドロさんのお話だとか。 ボケとツッコミが常時繰り返されるこの空間に、知らず知らずと笑みが零れてしまう。 |