真選組屯所での女中生活が始まってから、4日が経ちました。 拝啓、あたしが元居た世界の皆様、元気に暮らしていますか?ユカちゃん、漫画借りっ放しでごめんね。お父さん、お母さん、せっかく帰ってきたのに娘がいなくてごめんなさい。あたしはとっても元気に暮らしています!お仕事は大変で、 だけど新しいことばかりで楽しくもあり、毎日が目まぐるしく過ぎ去っていきます。 「ちゃん、朝ご飯できたから皆さん起こしてきて!」 「はーい!」 休日早起き、 子 ど も の 鉄 則 先輩女中さんに大きな声で返事をして、隊士の皆さんを起こしに行く。これがあたしに任された、朝一番の大仕事だ。廊下を歩きながら大きな声で呼べばほとんどの隊士さんは起きてきてくれる。 「みなさーーーん!朝ご飯できましたーーー!」 廊下の双方の襖が次々に開く。あたしの姿を目に捉え、皆さんはおはようと声をかけてくれる。そしてあたしは微笑んで挨拶を返す。おはようと挨拶をしてくれる、これが結構嬉しかったりするんだ。最初は変人扱いされると思ったもんなぁ…。こんなに友好的な態度で接してくれるなんて、嬉しいし有難いことこの上ない。 そんなことを考えながら廊下を歩き声をかけていると、襖が開き土方さんが出てきた。あ、欠伸してる…寝癖ぴょんってしてる…。普段は鬼の副長だとか言われている土方さんも(山崎さんがそう言っていた)、寝起きは凄みがないというか迫力がないというか、可愛らしいというか。思わずフッと声に出して笑ってしまった。 「…んだよ、何がおかしいんだ」 「いや、別になんでもありませんよ…?」 笑いそうに引きつる口元を堪えながら答える。瞳孔も開いていない寝起きの迫力がない顔で凄まれたけれど、お世辞にも怖いとは言えない。寧ろ、毛先がぴょんとしてる寝癖だとか、どちらかと言えば可愛らしい。あ、わかった!この寝癖、何かに似ていると思ったらアレだ、発芽米だ!そう気づいてみると更におかしく思えてくる。 「あ、えっと、ご、ごご飯できましたよ!あたし沖田さん起こしてきます!」 このまま土方さんと対面していたら本当に噴出してしまう。ということで、あたしは土方さんの横をスルリと抜けて、沖田さんの部屋前まで軽く走った。此処から先が、難関なのだ。沖田さん以外の隊士は、さっきの呼びかけで皆さん起きて食堂へと向かって行った。どんなに大声で叫んでも起きないこの男、沖田総悟を起こすことが、あたしに任されている仕事の中でトップ3に入る大仕事だ(ちなみに他の候補は、大量の洗濯物と大量の食器洗いだ)。 外れない程度に勢いよく襖を開ける。 「沖田さーん!朝ご飯できまし、た………よ?あれ?」 「へいへい、は朝から五月蝿くていけねェや」 「あれ、沖田さん…なんでもう起きてるんですか、ね?」 「起きてちゃ悪いんですかィ?俺ァ、今日非番なんでさァ。非番の日は早起きって決めてるんでィ」 休みの日は早起きする、って、あなたは休みの日に早起きして朝からヒーロー番組見てるちびっ子ですか! いつもはお布団に包まってぐっすり眠っている沖田さんが、既に起きて着替えて机の前に座ってるもんだから、すごく驚いてしまった。なんだ、今日は槍でも降るんじゃなかろうかと思ったのに休みの日だから早起きって…。だいたい、あたしが大きな声を出すのは誰のせいですか。沖田さんがなかなか起きてくれないからでしょうに! ちなみに初めて起こしに来たときは、寝ぼけていたのか本気なのか「土方うるせェんだよコノヤロー」と刀で斬られそうになり(あたしと土方さん、どこをどう見間違えたんだろうか)、翌日は布団に引きずり込まれて抱き枕にされてしまった。沖田さん、顔はすごくいいからドキドキな展開?!なんて思う余裕あたしにはこれっぽっちもなく、顔を胸に押し付けられている挙句ガッチリ羽交い絞めにされて身動きが取れずで本当に生死を彷徨いかけた。なかなか食堂に現れないことを不審に思った近藤さんが様子を見に来てくれなかったら、あたしは本当に川を渡ってしまうところだったかもしれない。 …どうして人を一人起こすだけで死線を潜らなきゃいけないんだ。 「起きてるなら早く出てきてくださいよ、聞こえてたでしょう?」 「は今日暇ですかィ?」 「いや、お仕事ですけど。今日は廊下掃除と洗濯物とお風呂掃除と夜ご飯の仕度がありますね」 「暇なんですかィ?」 「あたしの言葉に暇っぽさ出てました?」 「あぁ、分かりやした。暇なんですねィ?」 「あのですね、人の話聞いてましたか?!いつもよりちょっと忙しいくらいなんですけど!」 沖田さんとは会話のキャッチボールが上手く出来ない。いや、あたしはキャッチボールしようとしてるんだけど、如何せん沖田さんにその気がないのかなんなのか、非常に我意が強いというか…なんて、本人には絶対言えないけど(だってこんな可愛らしく爽やかな外見でドSだってこと、あたしもう気づいてるもんね!怖いんだよ!)。 「3時くらいに、ちょっと手伝って欲しいことがあるんでさァ」 「…はぁ、3時なら休憩あるんでちょっとくらいなら…」 「そいじゃ、3時に食堂に来てくだせェ。時間厳守ですぜ」 そう言うなり、沖田さんは お腹空きやした と、あたしを置いてとっとと部屋を出て行ってしまった。3時に食堂で一体何があるんだ…?3時といえばおやつの時間?あ、もしかしておやつ作れだとかそういうことかな。ん?でも、手伝って欲しいって言ったよなぁ…なにするんだろうか。 あたしはそんなことを考えつつ、既に遠くなる沖田さんの背中を追いかけて食堂へ向かった。 「…っよし、おわり!」 んーっと、空に向かって伸びをした。カゴの中に大量に詰まっていた隊士たちのワイシャツも、今は物干し竿にかかってゆらゆらと揺れている。今日の天気はすごく良い。真っ青な空に、真っ白なワイシャツがよく映える。 手首についている時計をちらりと見た。ただ今2時20分。お風呂掃除をしてから食堂に行けば時間丁度か少し早いくらいだろう。思い立ったが吉日!…あれ?ちょっと意味違うかもしれないけどまぁいいか。あたしは庭を離れて洗濯カゴを洗濯機の側へ片し、お風呂掃除に取り掛かった。 |