休日早起き、子どもの鉄則02



ふぅと一息つき、手をしっかりと拭いてから、腕まくりしていた浴衣の袖を下ろす。お風呂掃除も無事に終えた。あと5分程で3時になる。沖田さんはもう食堂にいるのかな?と思いながら廊下を進んでいると、向こう側からカフェオレ色の頭が見えた。沖田さんだ。


「沖田さん!」
「時間丁度ですねィ。遅れてくると思いやしたが」
「遅れるわけないじゃないですか!(だってどんな仕打ちが待ってるか分からないもの!)…あれ?その袋なんですか?」
「あぁ、これですかィ?今日を呼んだのはこれのためなんでさァ」


食堂の調理場に着くなり、沖田さんは袋の中身を出し始めた。卵にバター、お砂糖、牛乳、小麦粉、生クリーム…これってケーキの材料…?もしくはクッキー?とにかくお菓子作りの材料だ。もしかして、手伝って欲しいことって…沖田さんのお菓子作りのお手伝い?!


「こ、ここれって、お菓子作りの材料…ですよね?」
「そうですぜ。材料費自前だから絶対成功させたいんでさァ。、ケーキ作れますかィ?」
「えっと、まぁ、作れないことはないですけど…誰かにあげるんですか?」
「誰って、土方さんでさァ。いつもお世話になってるんでねィ…感謝の気持ちを込めてあげようかと。甘いものは疲れを癒すって言いやすしね」


普段"土方コノヤロー"だとか"土方死ね"だとか"土方死ねコノヤロー"だとか"死んでくんねぇかな土方"だとか"土方死ねばいいのに"だとか言ってバズーカー当てたり斬ったりしてる沖田さんが、土方さんに贈り物って。…本当は土方さんのこと大切に思っていたのね!本当は上司思いの部下なんだ!ただちょっとSっ気が強くて、ただちょっと素直じゃないから普段はあんなこと口走ってばかりなんだ。きっとそうだ。うん、きっとそうなんだ…と思いたい。


卵とお砂糖、バターと牛乳をボールに入れて混ぜる。ちなみに混ぜてるのはあたしで、沖田さんは隣で小麦粉をふるっている。ちょっと待って、ものすごい勢いで白い粉が飛んできてるような気がする…じゃなくて飛んできてる!


「お、お、おお沖田さん!粉、飛んできてる!小麦粉舞ってる!」
「あ、すいやせん。ケーキ作りなんて初めてなもんで。ちなみに俺の名前は沖田であって、おおおおおきたじゃねェでさァ」
「もっと優しくふるってあげてくださいよ!」


小麦粉をふるい直す沖田さんを横目に、あたしは生クリームを泡立てる。無糖のクリームだったのでお砂糖を入れようと手を伸ばすと、その手を沖田さんに遮られた。


「沖田さん?お砂糖入れなきゃ甘くなりませんよ」
「土方さんは甘いの嫌いなんでさァ」
「あ、そうなんですか…じゃぁ、入れないでおきます」
「その代わりコレ入れてあげてくだせェ」


甘いのが嫌いなのになんでケーキをあげようと思ったんだろうか、と不思議に思いながら再び泡だて器を持ったあたしに、沖田さんはポケットから一つのビンを取り出して渡した。…マヨネーズエッセンスとかだったらどうしよう。素晴らしい上司愛だとは思うけど、なんだか嫌だ。とにかく嫌だ。何が嫌だとかじゃなく、とにかく嫌だ。

ビンは半透明で褐色なので、中の液体の色が何色なのかよく分からない。とりあえず小皿に一滴垂らしてみる。



……………ん?一滴だからこんな色なのか?

もう一滴、二滴、三滴垂らしても液の色は変わらない。とても怪しげな、紫と黒と茶と緑が混じったような色をしている。この色の名前をあたしは知らない。強いて言うなら、ドブだとかヘドロだとか、そういうものの色に似ている気がする。何かのエッセンスというよりも毒ではないのか、と思う。


「それすごく高かったんですぜ、もうお財布空っぽでさァ。でも背に腹はかえられないから仕方ねェ」
「あの、これどう考えても毒薬にしか見えないんですけど…」
「よく分かりましたねィ。これも土方コノヤローのためを思ってのことですぜ」
「…っどこをどう思ってるんですか!あんた仮にも警察でしょうが!違法だよ、違法!」
「土方さん、日頃から俺が命狙ってるせいで精神的にも肉体的にも疲れてるだろィ?だからもう潮時だろうと思いやして。こいつは凄いですぜ、口に含めば苦しまずに…」
「だいたい土方さん甘いの苦手なんでしょう?ケーキ出しても食べないと思いますけど!」
「やつは マヨ入りだ って言えばとりあえず口に含むんでさァ。そうすればあとは苦しまずに…」
「あんたまじでいい加減にしろ!」


危うく共犯者になるところだった…!怪しい液体の入ったビンは、すぐに調理場のゴミ箱に放り捨てた。ちなみに生ゴミの方に。ビンがゴミ箱の側面に当たり、パリンッとガラスの割れる音がした。それに次いでゴミ箱の中から プシュゥ… と通常では聞こえないような音が聞こえてくる(本当に危ないな!)。



怪しい液体がなくなり、それと同時に"土方さん苦しまずに…計画"もおじゃんになった。だけど、この作りかけのケーキを捨てるわけにもいかず、あたし一人で焼き上げることにした。沖田さんは近くに椅子を持ってきて座って見ている。心なしか頬が膨れて唇がとがっていた気がするけれど、あれは仕方ないでしょう!いくら嫌いでもあれはやっちゃいけないって!

途中で土方さんが「総悟見てねぇか?!あいつ俺の部屋になんか変なもん仕込んでやがった…!」と、食堂に来たけれど、生憎その時沖田さんはトイレに行っていたために見つかることはなかった。よかったね、土方さん、あのままことが運べば今頃あなたは苦しまずに…だったかもしれなかったんだよ!




「あー、美味いですねィ。ケーキなんて久しぶりに食べやした」
「お口に合うみたいでなによりです、あ、でも余りますね…どうしようかな」


無事に焼けたケーキを沖田さんと2人で食べた。材料が多かったためにサイズも大きくなり、まだまだ余っている。甘いもの好きな隊士の皆さんに配ってもまだ余りそうだな………あ、そうだ!


「あの、沖田さん、余ったケーキもらっていってもいいですか?」
「別に構いやせんが。全部食べたらブタになりますぜ?」
「あたしが全部食べるわけではなくてですね…えっと、とにかくもらいますね!」


お皿を2つ用意して、ケーキを乗せてラップをかける。こっちは隊士の皆さんに、もう片方は万事屋さんに持って行くことにしよう。神楽ちゃんが甘いもの好きだといいなぁ。それにあの、銀さん?(確か、銀時さんだったかな…?)も、買い物カゴにあれだけお菓子を入れていたんだ、きっと甘いものが好きなはずだ。

明日はお休みをもらっているから、早速ケーキを持って遊びに行こう!






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土方さんが発芽米になってたらちょっと可愛いと思う(斬られるよ)
20070316