「なにかウチに御用アルかー?」
「え?」
踵を返したところで可愛らしい声に呼び止められた。目がくりくりとした、チャイナな服を着た可愛らしい子だ(そういえば語尾もチャイナだった)。ウチってことは、この子、万事屋さんの娘さん、若しくは従業員さん?
「万事屋さんの、従業員さんですか?」
「そうヨー!万事屋神楽とはアタシのことアル!」
「(よろずやかぐら…?)か、かぐらさんですか?」
「神楽でいいアルよ!で、どうしたアルか、こんなところで」
「あ、あの、…警察ってどこにあるか分かりますか?」
「けいさつ…真選組のことネ!連れてってあげるヨ!」
「ありがとうございます!」
なんてラッキーなんだろう。物騒なところへ立ち入る前に、恐らく従業員さんであろう神楽ちゃん(一応ちゃん付けにしておく)に助けられた。これで一安心だ。警察に行って事情を話せばなんとかしてくれるだろう。
「定春に乗っけて連れてってあげるヨ!ほら、乗るヨロシ!」
「(さだはる…?)」
定春とは、愛車か愛自転車か何かの名前だろうか。そういえばあたしも自転車にハルサメって名前つけてたっけ。サダハルとハルサメってなんか似てる、いや、ハルしか合ってないんだけど。そんなことを考えつつ、神楽ちゃんがおいでおいでとする方を見る。
…ちょっと待って。
確かにあたしは異世界にきた。ここは異世界だ。だけどちょっと待って。あたしはあんなもの見たことないし想像だってしたことない。確かに異世界だ、なんでもありっちゃありだ。それにあたしは非科学的なものは信じないわけじゃない、どっちかというとお化けとか信じちゃう方だ。でも待って。モノには限度があるはずだ。何を餌にしたってこんなに育ちはしないはずだ。………あたしはこんな大きい犬認めない!
「神楽ちゃん、この子が、さだ、はる?」
「そうヨ!凶暴だけどアタシには懐いてる可愛いペットアル!」
「そ、そうなんだ…」
その時ふと目に入ったものに、あたしはまた目を瞠ったっていうか、見開いたっていうか、疑った。ゴシゴシと目を擦ってみる。そんなことで見たものが変わるはずがない。より鮮明になっている気さえする。どうしてトラが二足歩行で服を着ているのだ。どうして犬が(しかもドーベルマン系の)二足歩行でカッチリとした服を着ているのだ。あれ、ちょっと待って…空に船が浮かんでいる…?飛行機じゃなくて?船型の飛行機…じゃない、あれは船だ。空に船が浮かんでいる。
え、…江戸だけどちょっと近代っぽいなぁとは思った。だけど何かおかしい。異世界だから仕方ないレベルではない。だってトラが二足歩行で服着てるし!今までトラは4足歩行で颯爽とサバンナを駆け回る動物だと思っていたけれど、それは間違いだったの?あたしの偏見だったの?というよりも、あたしの世界の学者たちの偏見?
「おーい、神楽、帰ってきたなら早く上がって来いよ」
「銀ちゃん、お客さんアル!警察まで連れてってほしいって言ってたヨ!」
「警察だぁ?おいおい、隣のお嬢ちゃん何かやらかしたのか?そんな顔には見えないけどよぉ」
「それなら俺が連れて行きまさァ。ちょうど帰るところだし」
「そうだ神楽、それは沖田くんに任せなさい。飯にするぞ飯!」
「わーい!ご飯!ご飯!今日は何ー?!」
「下のババァが気前良く筑前煮くれたんだよ、今日はそれがおかずだ」
「わーい!今日はまともなご飯アル!定春、帰るヨ!」
な、なんだなんだ、ここに来たときよりも更に3倍くらい早く脳が高速回転している。え、うそ、なにこれ、本当に思考回路ショートしそうっていうか、ショート…した………。
それからどうなったかはよく覚えていない。一つ覚えているのは、さっきダンナって呼ばれていた人が筑前煮って言ったことだけ。やっぱり晩御飯は筑前煮にしよう、豆腐ハンバーグはまた明日だ。
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両親の仕事はマフィアだったらいい(色々混じっちゃってるヨ!)
20070216
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