呪いが解けてもキスをして



空が一面朱色と藍色のグラデーションに染まる頃、今日の練習が終わった。いつもより少しだけ早い。なんでも今日はモモカンのバイトがなんとかかんとかで…ごめんなさい、話聞いてませんでした。

花井がかける練習終了の声とともに、俺はすぐさま更衣室へと向かい練習着から制服へと着替える。そして向かうは9組の教室。の待つ、教室。練習が早く終わるなら一緒に帰りたいとに言われ、一緒に帰ることになった。でもいくら早く練習が終わるって言ったって、遅いもんは遅い。それでも待つって言うから…まぁ、一緒に帰れるのは嬉しいからいいんだけど。

あっれ…教室の電気ついてなくね?



ー?ー?おい、…あ」



名前を呼びながらドアをガラリと開け、教室を見渡す。窓際端の列、前から二番目に探していた姿を見つけてゆっくりと近づいていく。机に腕を乗せ、その腕の上に頭を乗せて、気持ちよさそうな顔では寝ていた。こんなところで寝やがって…ったく、誰かきたらどうすんだよ。こいつには危機感ってものがまるでない。ついでに隙もありすぎる。だから田島とか田島とか田島とか浜田にちょっかいかけられんだよ。



「起きろよ、」



声をかけながら肩を揺らす。んー…っとくぐもった喉が鳴る音が聞こえ、しばらくしてから目がうっすらと開き始めた。うっわ、まつげなげぇー…。俺も長いとか目がまるっこいだとかよく言われっけど、女のに比べれば大したことない。長いまつげに、飴玉のように甘くまんまるの目。



「遅くなって悪かったな。もう帰るぜ」
「…んー…こ、すけ…」
「帰ろうぜ」



途切れながらもの口から発された俺の名前が静かな教室に響いた。目覚めたんだと安心したのもつかの間、一度開いたと思った目がもう一度閉ざされた。そしてほんの数秒後に聞こえてきたのは、気持ちの良い吐息。え、ちょっと待てって!帰るって言ってんだろ!スースー、なんて、もしかしてさっき寝てたよりも気持ち良い眠りに入っちゃってんじゃねぇの?!

俺は仕方なく、の眠る席の一つ前に腰を下ろした。さらっさらな髪の毛。綺麗な色してる。撫でるたびにするすると落ちていく。髪の毛が被さる頬、その先に見える唇。
…なんだ、なんかこう、…うん。ムラムラ?ちげぇ、そうじゃなくて…いやでも、そんな気分?やべぇ、すごくキスしたい。なんかこいついい匂いするし。…って、俺は変態か!いや、健全な証拠だ。きっとそうだ。もう一度名前を呼んで起きなかったら、そのときは、………寝てるやつ相手に勝手に罰ゲーム決めてどうしたいんだ俺は。

そんな自分にため息をつきながら、頭を撫で声をかけた。



「…、起きろ」



寝ているやつ相手に勝手に決めた罰ゲーム、ずるいのは分かってる。ただ俺がそうしたかっただけだ。一向に返事のないその唇にそっと自分の唇を重ねた。









呪いが解けても


キスをして










「…ね、こうすけ、もういっかい」
「っおま!起きてたのかよ?!」
「今のキスで目覚めました」






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眠り姫
title:呪いが解けてもキスをして(by.SBY)  070812