- 0 ℃ の 青 い 嘘 高校3年生の夏といえば、進路に大きくかかわってくる時期(らしい)。俺にはよく分んねぇが珍しく銀八が教師らしくそう語っていたのが耳に入ってきた。俺はというと、よく分んないと言っている通り何も考えちゃいない。行きたい学校なんてないし、なにをやりたいのか、どういう仕事に興味があるかもよく分らない。興味があるといえば土方についてだとか。いや、これは決して変な意味じゃなくて。 きっと周りもそんなもんだろうと思っていたのに(なんてったって3Zだ)、そう思ってたのは俺だけで。土方に山崎、志村弟はまだ分かるが…チャイナでさえも進路についてそれなりに考えていた。3Zの中で何も考えていないのは、俺だけ。 「おい、」 「んー?」 「…お前はし、んろ、どうすんだィ」 「し、んろ…?あ、進路ね!あたしは大学受験だよ」 「受験、ですかィ?」 「うん。あれ、言ってなかったっけ?あたしこれでも教師目指してるんだからねー」 銀八に触発されてっていうのがなんとも言えないけど、と付け加えて俺の隣に座る彼女は笑った。見上げればキラキラと青く輝く空。隣を見れば笑う彼女。足元を見れば暑さで熱されたコンクリート。受験するやつがこんなところにいていいのか些か疑問が残るけれど、何も考えていない俺に比べりゃぁ(確か今は国語、銀八の授業だ)。 空は海の鏡なんだよ、だから空は青いんだよと誰かが言っていた言葉がふと頭を過る。それじゃぁ、海の青さはどこからきてるんですかィ?未だにこの謎は解けない。 「ねぇ、総悟の進路は?受験?」 「…んや、なんも考えてねぇや」 「え?!わ、あ、それじゃぁあれか…、銀八が言ってた未提出者ってもしかして総悟?」 「未提出者?」 「うん、1週間くらい前に進路調査出されたでしょ。覚えてない?」 「あーあれか。紙飛行機にして飛ばしやした」 「ちょ、なにやってんの!」 焦る彼女の顔を見て、心臓がざわついていく俺。進路って、そんな大事なことなんですかィ?3Zでいられる時間はまだまだあるだろィ。もうちょっと経ってから考えたって遅くはないはずだ。今からそんなことばかり考えてたら息が詰まりまさァ。もっと遊んで、それから、それから、それからでも遅くないはずだ。 青い空に白い雲に照る太陽、キラキラと笑う彼女に騒がしい仲間たちに教師らしくない俺らの先生。俺は今が楽しければそれで十分なんでさァ。 別れを告げたのはそれから2週間後。セミが鳴き始めた初夏の頃。 「一言で言えば別れたいんでさァ」 3Zは3Zであって、それには変わりないのに、少しずつ、変化している雰囲気。それに疎外感を感じたのは、きっと何も考えていない俺だけだ。将来のことを何一つ考えていない俺と、先をしっかりと見据えている。俺にしちゃおかしなくらい弱気だが、このまま一緒にいてはいけない気がした。の隣にはもう並んでいられないんじゃないか。…おかしいくらい弱気だ。 弱気になると同時にざわついてぐちゃぐちゃとする俺の心臓に、イライラする。と一緒にいると更にざわついてぐちゃぐちゃに濃さが増す。なんですかィ、こりゃ。 飽きた、そんなわけねェだろィ。暇つぶし、そんなわけねェだろィ。暇つぶしで2年間も付き合えるほど、俺ァ器用な人間じゃぁありやせん。でもそう言うしかなかった、どうにかして俺のことを嫌いになってくれたらと思った。、お前はこんなやつと付き合ってちゃダメんなりやすぜ。 そうだな、付き合うなら………悔しいけど、には土方なんかがいいんじゃねぇですかィ。あいつはちゃんと将来のこと考えてるみたいだし。この前教師になりたいだとか言ってやしたぜ。も教師志望なんだし、お似合いじゃねぇですかィ。 「じゃぁな、さようなら」 これが全部全部自分を守るための言い訳だってこと、痛いくらいに分かってまさァ。自分が傷つく前に、自己防衛。ついでに、追ってきてくれるんじゃないかとかそんな期待をしていたことも白状しときやす。俺ってほんとひでぇやつ。鋭い氷柱みたいな言葉を散々に突き刺しておいてそんな甘いこと言ってるだなんてな。 (こんなにも一字一句丁寧に 「さようなら」 を言ったのは、人生で初めてだ) ** 釣り合えない自分が酷く惨めに思えてしまった title:-0℃の青い嘘(by.SBY) 20070607 |