心 は 急 に 止 ま れ ま せ ん 「…飽きた」 「ん?どうしたの、総悟」 「もう飽きた」 「そのマンガつまらないの?」 「違いまさァ。あんたに飽きたんでィ」 え? 一言聞き返したときのあたしの顔は、笑いとも苦笑いともとれない、かと言って泣きそうな顔とも言えない、きっとそんな顔だったはず。口元が引き攣る気持ち悪い感覚が嫌な程に伝わる。脳内では口から出ていくべき言葉が次々と生み出されているのに、喉からは情けない息だけが漏れる。冷え切った総悟の目が怖い。金縛りにあったような痛さに体中が包まれる。 どうしてそんなことを?飽きたって…またそういうこと言ってあたしをからかって楽しんでる、…の、かな?「またそんな冗談言って!」なんて笑い飛ばす勇気が出てこない。もしも笑い飛ばせたとして、総悟が共に笑ってくれる自信がこれっぽっちも湧いてこない。 「もっと分かりやすく言わないと分かりやせんか?一言で言えば別れたいんでさァ。もっと詳しく言うならあんたは俺にとっちゃ暇つぶしだったってことでィ。あ、言っとくけど冗談でもなんでもねェからな。今日はエイプリルフールじゃないんでね。それじゃ、俺ァもう帰りまさァ。じゃぁな、さようなら」 さっきまで読んでたマンガをカバンにしまいながら総悟は淡々と言い、床を見たまま教室を出て行った。その間、1回もあたしの顔を見なかった。そういえば、今日は一度も名前を呼んではくれなかった。あたしはあたしで総悟の顔を見ることができず、ただ同じように床を見つめていた。総悟の汚れた上履きがどんどんと遠く離れていく。 今引き留めなきゃと、心と頭はガンガンと大きな音で鐘を鳴らしていた。それに気付いていなかったわけじゃない。気付いていたけれど、身体がその鐘を聞き入れないようにしていた。さっきの場から数ミリしか動いていない、上面に名前と落書きが書いてあるあたしの上履きがだんだんとボヤボヤ滲んでいく。 暇つぶしだった、だなんて、そんなこと言われたって。 「嘘に決まってる」と自信を持って言えないなんて、あたしの総悟に対する気持ちってそんなもん?今まで一緒に過ごした2年が暇つぶしだなんて、信じられない。信じられない、信じられない、だけど、…。2年もの暇つぶしって、どれだけ暇だったの、総悟。楽しくてだいすきで、これからも隣にいると思っていたのはあたしだけだったってこと?あたしは総悟といる毎日に、飽きたなんて思ったことなかったのに。あたしはこの2年間、夢をみて過ごしていたの? 頭の中にはたくさんの言葉が渦巻いているのに。追いかけて捉まえるだけ、ただそれだけの勇気があたしにはなかった。
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