「なぁ、」 「んー?あ、土方くん、ここ違うよ、答え2番」 「あ…ほんとだ」 「珍しいねぇ。土方くんここの範囲得意でしょ?」 「いや…まぁ、………あのさ、」 「ちょっと待って、あー、なんだろこの問題、むずかしいな…」 さっきからずっとこの調子だ。俺の話す言葉を遮るように、は上手に話題を変えていく。まるで俺が次に話す言葉が分かりきっているかのように。その話題は振らないでと言うように。 俺が首を突っ込んでいい話題なのか微妙なところだが、…というよりもきっと突っ込まない方が正しいんだとは思う。だけど気になって仕方がない。最近、総悟との関係がどこかおかしい。付き合ってるんだ、もう2年という長い仲で。その間にこんな風になったことは俺の記憶では、ない。ベタベタとはしていなかったが、お互いがお互いを想う心が見てとれた。あの総悟が、すごく優しい顔をするんだ、の前では。俺に見せるムカつく憎たらしい顔の面影なんてこれっぽっちもない、優しい顔を。 「ひーじーかーたーくーーーーーん」 「……あ、あぁ、わりィ。なに?」 「んーん。ボーっとしてるからどうしたのかと思って。なにか悩み事?お困り?」 「悩み事っつうかさ…、」 「あたしでよければなんでも聞くよ!」 「なんでもか?」 「うん!」 「あのさぁ…総悟と、なんかあったのか?」 の顔が引き攣った。引き攣ったまま、苦しい笑みに変わる。やべぇな…これは明らかに首を突っ込んでいいような軽い問題ではなかったらしい。プリントの上を滑っていたシャーペンを机に静かに置いて、は俯いた。泣かれるか?泣いたらどうすりゃいいんだ…総悟に知られたら殺されるぞ、まじで。命ないぞ。 「気になる?総悟となにがあったのか」 「気になる…な、まぁ、そりゃ。なんかおかしいしお前ら。総悟なんていつも以上に殺気だってるし。俺、命がいくつあっても足りねェ気がすんだけどよ」 「別れたんだよ、一昨日」 「は?」 ゆっくりと聞こえ始めた声は、あまりにもあっけらかんと、流れるように終わる。頭が追いつかなかったせいか、声にならないような情けない声で返答をした俺の開きっ放しになった口と顔を見て、は一言「男前な顔が台無しですよ、お兄さん」と冗談めいた声で言った。 俯いていた顔をあげたその目に涙なんてなかったんだ。だけどな、そんな痛々しい笑みを浮かべるのはどうかと思うんだが。そんな顔見せるぐらいならいっそ泣いてくれた方がマシだったと思う。きっと本人は何でもないよと言いたいつもりで笑っているんだろうけど。 こんなときにかける言葉が、何一つ見つからねぇ。ボキャブラリーの少なさに悔しくなる。 別に、あれだ。俺がを好きだとかそういうわけじゃねぇ。でも気になるもんは気になるんだ。こいつの隣で笑う総悟と、総悟の隣で笑うこいつ。その2人を見ているのが確かに好きだったんだ、俺は。なんだ、あれか、親心みたいなもんなのか?わかんねぇけど…。 「土方くん」 「…」 「気にしないでね」 「いや…なんつうか、聞いてわるかっ」 「それ以上言わないで。いいんだよ、別に。気になったものは仕方ないでしょ?いつかは誰かに聞かれると思ってたし。もう、大丈夫だから。だから…うん」 「…」 「うん…明日の模試の勉強!続きしよ!あのさ、解説見てもここの問題の意味が分からないんだよね、土方くんここ得意でしょ?わかる?」 「あ、…ここはな、」 別に、あれだ。俺がを好きだとかそういうわけじゃねぇ。でも、どうしようもなくこいつを抱きしめてやりたいと思ってしまった。閉じ込めて、閉じ込めて、頭を撫でてやって、あたためてやって、誰かの心臓の音でも聞かせてやって、その顔を誰にも見えないようにしてやれば、臆することなく泣きじゃくれるんじゃないか、って。 泣かせたい願望?そんなんじゃねぇ。泣いて泣いて思う存分気持ちを吐き出せば、ちゃんと笑えるようになんじゃねぇかって思ったんだよ。泣かせたい願望じゃない。泣いたあとの笑顔が見たいだけだ。 ど っ ち が 惨 め だ ろ う な ん て (大丈夫と痛々しく笑うことと、思い切り泣くじゃくることと、…そんなのわかんねぇけど) ** 親的ポジションひじかたくん title:どっちが惨めだろうなんて(by.SBY) 20070623 |